給与のデジタル払いと外国人従業員|指定4社・同意書の様式・13言語の公式リーフレット【2026年7月版】

賃金のデジタル払いの指定資金移動業者が4社であること、手続きが労使協定と同意書の2段階であること、公式リーフレットが13言語であることを示す図 ビザ

給与を銀行口座ではなく、PayPayなどの資金移動業者の口座で受け取る「賃金のデジタル払い」。制度が始まって3年が経ち、2026年7月時点で厚生労働大臣の指定を受けた事業者は4社になりました。

外国人従業員を雇用している会社にとって、この制度は「導入するかどうか」以前に説明と手続きの型が法令で決まっているという点が重要です。この記事では、根拠条文・指定4社・2段階の手続き・同意書の記載欄・多言語資料まで、厚生労働省の一次資料で確認できる範囲を整理します。

根拠は労働基準法施行規則7条の2第1項3号

賃金は原則として通貨で直接労働者に支払う、というのが労働基準法24条の定めです。その例外として銀行振込などを認めているのが労働基準法施行規則7条の2で、ここに第3号として資金移動業者の口座が追加されました。

追加したのは労働基準法施行規則の一部を改正する省令(令和4年11月28日厚生労働省令第158号)で、その附則にはこう書かれています。

この省令は、令和五年四月一日から施行する。

——労働基準法施行規則 附則(令和四年十一月二十八日厚生労働省令第百五十八号)

つまり2023年(令和5年)4月1日施行です。条文本体(第7条の2第1項)の柱書は次のとおりです。

第七条の二 使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。ただし、第三号に掲げる方法による場合には、当該労働者が第一号又は第二号に掲げる方法による賃金の支払を選択することができるようにするとともに、当該労働者に対し、第三号イからヘまでに掲げる要件に関する事項について説明した上で、当該労働者の同意を得なければならない。

——労働基準法施行規則 第7条の2第1項(e-Gov法令検索)

ここが実務上いちばん効きます。デジタル払い(第3号)を使う場合には、

  1. 第1号(銀行等の預貯金口座)または第2号(証券総合口座)も選べるようにする
  2. 第3号イ〜ヘの要件について説明する
  3. その上で同意を得る

の3つが条文上の義務として並んでいます。「うちはPayPayだけ」は制度上あり得ません。

指定資金移動業者は4社(令和8年7月1日現在)

厚生労働省が公表している指定状況は次のとおりです。

指定番号事業者名指定日サービス名口座の受入上限額保証機関
第00001号PayPay株式会社令和6年8月9日PayPay給与受取20万円三井住友海上火災保険
第00002号株式会社リクルートMUFGビジネス令和6年12月13日COIN+(スタンダード)30万円三菱UFJ銀行
第00003号楽天Edy株式会社令和7年3月19日楽天ペイ給与受取10万円楽天信託
第00004号auフィナンシャルサービス株式会社令和7年4月4日au PAY 給与受取10万円auじぶん銀行

出典:厚生労働省「資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について」(令和8年7月1日現在)

審査中の事業者は0社です。制度開始から3年で4社、というのが現在地です。

「100万円」と各社の上限は別のもの

デジタル払いの話でよく出てくる「100万円」は、各社が決めている受入上限額のことではありません。条文(第7条の2第1項第3号イ)はこう定めています。

イ 賃金の支払に係る資金移動を行う口座(以下単に「口座」という。)について、労働者に対して負担する為替取引に関する債務の額が百万円を超えることがないようにするための措置又は当該額が百万円を超えた場合に当該額を速やかに百万円以下とするための措置を講じていること。

——労働基準法施行規則 第7条の2第1項第3号イ(e-Gov法令検索)

つまり100万円は、厚生労働大臣の指定を受けるための条件(口座残高の上限)です。その枠内で、各社が実際の受入上限を20万円・30万円・10万円と個別に設定している、という二段構えになっています。上の表の数字が会社ごとに違うのはこのためです。

手続きは2段階(労使協定 → 同意書)

導入する場合、会社がやることは大きく2つです。

① 労使協定を結ぶ

過半数労働組合、それがなければ過半数代表者との間で労使協定を締結します。協定で定める内容には、対象となる労働者の範囲取扱指定資金移動業者の範囲などが含まれます。

② 希望する人から同意書を受け取る

労使協定は「会社として使えるようにする」ための手続きで、これだけでは個々の労働者に適用できません。実際に受け取る本人が同意書を出すことが必要です。

同意書には何を書くのか(様式例の中身)

厚生労働省は同意書の様式例(局長通達2の別紙)を公開しています。記載欄は次のようになっています。

冒頭のチェック欄(確認したこと)

  • 使用者から、指定資金移動業者の口座のほか、預貯金口座(銀行口座等)又は証券総合口座への賃金支払も併せて選択肢として提示されたこと
  • 使用者または委託を受けた指定資金移動業者から、裏面の留意事項について説明を受け、その内容を確認したこと

選択欄

  • 同意する/同意しません(同意しない場合は以下の記入不要)

記入欄

  1. 資金移動を希望する賃金の範囲及びその金額(ア. 定期賃金/イ. 賞与/ウ. 退職金 をそれぞれ円単位で記入)
  2. 指定資金移動業者名・資金移動サービスの名称・口座番号(アカウントID)・名義人
  3. 支払開始希望時期(年月日)
  4. 代替口座として指定する金融機関店舗名・預金の種類・口座番号・名義人

注目すべきは4番の代替口座です。様式にはこう注記されています。

※本口座は、指定資金移動業者口座の受入上限額を超えた際に超過相当額の金銭を労働者が受け取る場合、指定資金移動業者の破綻時に保証機関から弁済を受ける場合等に利用が想定されます。

——同意書の様式例(厚生労働省・局長通達2の別紙)

デジタル払いを選んでも、銀行口座等の登録は結局必要ということです。「銀行口座を作らなくて済む制度」ではありません。ここは外国人従業員に説明するときに誤解が生まれやすいポイントです。

裏面の「留意事項」6項目

同意書の裏面には、説明すべき事項が6項目にまとめられています。

  1. 労働者の同意(選択肢の提示義務。強制した場合の扱い)
  2. 資金移動業者口座の資金(送金・決済に使う範囲にとどめ、滞留させない)
  3. 破綻した場合の保証(預金保険制度の対象外。保証機関から弁済)
  4. 不正に出金された場合の補償
  5. 一定期間利用しない場合の債権(最後の変動から少なくとも10年間)
  6. 資金の換金性(1円単位で払出し。少なくとも毎月1回は手数料負担なく払出し可能)

このうち2番は、母国への送金を考えている従業員に関わります。留意事項の原文はこうです。

資金移動業者口座の資金は、預貯金口座の「預金」とは異なり、為替取引(送金や決済等)を目的としたものです。労働者が資金移動業者口座への賃金支払を利用する際には、口座への資金移動を行う賃金額は、為替取引(送金や決済等)に利用する範囲内とし、送金や決済等に利用しない資金を滞留させないことが必要です。

——資金移動業者口座への賃金支払に関する留意事項(厚生労働省)

貯めておくための口座ではない、というのが制度の立て付けです。

強制すると労基法24条違反になり得る

留意事項の1番には、踏み込んだ記述があります。

仮に、使用者が、賃金支払方法として、現金か資金移動業者口座かの2つの選択肢のみを労働者に提示した場合や、形式的に選択肢を提示していたとしても実質的に労働者に資金移動業者口座への賃金支払を強制している場合には、使用者は、労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条に違反し、罰則の対象となり得ます。

——資金移動業者口座への賃金支払に関する留意事項(厚生労働省)

「形式的に選択肢を提示していたとしても実質的に強制している場合」まで書かれている点が重要です。銀行口座を作りにくい従業員に対して「デジタル払いなら今日から受け取れる」と案内すること自体は問題ありませんが、それが事実上の一択になっていないか、という視点が要ります。

なお、ポイントや暗号資産での支払いは認められていません。また、給与の一部だけをデジタル払いにすることも、後から銀行振込に戻すこともできます。

説明のための公式資料は13言語ある

条文が「説明した上で同意を得なければならない」と定めている以上、説明が伝わっていることが実務の要になります。ここで使えるのが厚生労働省の多言語リーフレットです。

【労働者向け】「賃金のデジタル払いを導入するにあたって必要な手続き」(令和6年8月掲載)と、制度開始時のリーフレット「賃金のデジタル払いが可能になります!」(令和5年3月掲載)には、それぞれ13言語の翻訳版が用意されています。

英語/中国語/韓国語/スペイン語/ポルトガル語/ベトナム語/タガログ語/タイ語/インドネシア語/ミャンマー語/モンゴル語/クメール語/ネパール語

会社側で説明資料を作り込む前に、まず公式の翻訳版があることを確認してください。使用者向けのリーフレット(令和6年8月掲載)も別に公開されています。

まとめ

  • 根拠は労働基準法施行規則7条の2第1項3号。追加したのは令和4年11月28日厚生労働省令第158号で、附則により令和5年4月1日施行
  • 指定資金移動業者は4社(令和8年7月1日現在/審査中0社)。PayPay・COIN+・楽天ペイ・au PAY
  • 100万円は指定の要件(口座残高の上限)。各社の受入上限(20万・30万・10万円)とは別物
  • 手続きは労使協定 → 本人の同意書の2段階
  • 同意書には代替口座(銀行口座等)の記入欄がある。デジタル払いでも銀行口座等の登録は必要
  • 条文上、銀行口座・証券総合口座も選べるようにし、要件を説明した上で同意を得ることが義務。実質的な強制は労基法24条違反となり得る
  • 労働者向け・制度案内の公式リーフレットは13言語ある

制度・指定事業者・様式は更新されます。導入前には必ず厚生労働省の公式ページで最新の指定状況と資料を確認してください。

外国人従業員のキャッシュレス周りについては「PayPayなどのQRコード決済と外国人従業員」もあわせてご覧ください。


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