※本記事の情報は2026年7月時点の法令・法務省の公表資料に基づく情報提供です。個別の登記の判断については、法務局または司法書士等の専門家にご確認ください。
不動産を買うとき、借りるとき、あるいは取引先の会社を調べるとき——登記事項証明書は必ず出てきます。ところが、初めて見ると「表題部」「権利部(甲区)」「権利部(乙区)」という耳慣れない言葉が並んでいて、どこを見ればいいのか分かりません。
実は、この3つの区分には法律上の根拠があります。そして、法務省は実物とまったく同じレイアウトの見本を公開しています。この記事では、その公式見本を見ながら、どの欄で何が分かるのかを整理します。
まず現物を見る:法務省公式の「全部事項証明書(土地)」見本
これが法務省が公開している、土地の全部事項証明書の見本です。架空の土地(東京都特別区南都町)が題材で、「見本」と朱書きされています。

出典:法務省ウェブサイト「全部事項証明書(土地)の見本」(https://www.moj.go.jp/content/001309855.pdf )(2026年7月16日に利用)をPDFから画像化して掲載
上から順に、表題部 → 権利部(甲区) → 権利部(乙区) → 共同担保目録という並びになっているのが分かります。この順番には意味があります。
3つの区分は、法律と規則で決められている
表題部と権利部=不動産登記法
「表題部」「権利部」は、不動産登記法が定義しています。
第二条(定義)
七 表題部 登記記録のうち、表示に関する登記が記録される部分をいう。
八 権利部 登記記録のうち、権利に関する登記が記録される部分をいう。
第十二条(登記記録の作成)
登記記録は、表題部及び権利部に区分して作成する。
出典:e-Gov法令検索「不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
つまり、表題部=その不動産が「物理的にどんなものか」(表示に関する登記)、権利部=その不動産に「どんな権利があるか」(権利に関する登記)。これが最初の分かれ目です。
甲区と乙区=不動産登記規則
では「甲区」「乙区」はどこに書いてあるのか。実は不動産登記法には出てきません。この区分を定めているのは、法務省令である不動産登記規則です。
第四条(登記記録の編成)
4 権利部は、甲区及び乙区に区分し、甲区には所有権に関する登記の登記事項を記録するものとし、乙区には所有権以外の権利に関する登記の登記事項を記録するものとする。
出典:e-Gov法令検索「不動産登記規則(平成十七年法務省令第十八号)」 https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
この一文が、登記事項証明書を読むときの最重要ルールです。
| 区分 | 記録される内容 |
|---|---|
| 権利部(甲区) | 所有権に関する登記の登記事項 |
| 権利部(乙区) | 所有権以外の権利に関する登記の登記事項 |
「甲区=誰のものか」「乙区=それ以外の権利(抵当権など)が付いているか」と覚えると、証明書の構造が一気に整理されます。
5つの確認ポイント
① 表題部:その土地・建物が「何なのか」
見本の表題部には、所在・地番・地目・地積が並んでいます(土地の場合)。見本では「特別区南都町一丁目/101番/宅地/300.00㎡」となっています。
ここで確認するのは、自分が見ている物件と、証明書の物件が本当に同じかです。住所(住居表示)と地番は別物で、一致しないのが普通です。パンフレットの住所だけで判断せず、地番で特定するのが基本になります。
なお、地目が「宅地」以外(畑・田・山林など)の場合、そのままでは建物を建てられないことがあります。表題部は「物理的な現況」を示す欄なので、現況と登記が食い違っていないかもここで見ます。
② 甲区:現在の所有者は誰か
甲区は所有権の欄です。見本では、
- 順位番号1:所有権保存(平成20年10月15日受付第637号)/所有者 甲野太郎
- 順位番号2:所有権移転(令和1年5月7日受付第806号)/原因 令和1年5月7日売買/所有者 法務五郎
と記録されています。つまり、一番下(順位番号が最大)にいる人が現在の所有者です。見本では法務五郎さんになります。
売買の相手が「登記上の所有者」と一致しているかは、ここで確認します。
③ 甲区の「所有権以外の記録」:差押え・仮登記
甲区には所有権の移転だけでなく、差押え・仮差押え・仮登記も記録されます(いずれも所有権に関する登記だからです)。
これらが入っている物件は、権利関係が動いている最中の可能性があります。甲区は「所有者の名前を確認して終わり」ではなく、余計なものが入っていないかを見る欄でもあります。
④ 乙区:抵当権など、所有権以外の権利
乙区は所有権以外の権利の欄です。見本では、
- 順位番号1:抵当権設定(令和1年5月7日受付第807号)/原因 令和1年5月7日金銭消費貸借同日設定/債権額 金4,000万円/利息 年2.60%/損害金 年14.5%/債務者 法務五郎/抵当権者 株式会社南北銀行(取扱店 南都支店)
と記録されています。ローンが残っている物件なら、通常ここに抵当権が入っています。
抵当権のほか、地上権・賃借権・地役権なども乙区に入ります。買った後に「他人の権利が付いたままだった」という事態を避けるため、決済時に抹消される予定なのかを確認することになります。
⑤ 共同担保目録と「下線」
見本の一番下には共同担保目録があります。1つの債権のために複数の不動産に抵当権が設定されている場合、その一覧です。見本では「101番の土地」と「101番地 家屋番号101番の建物」の2つが載っています。
土地だけを見ていると気づきませんが、建物とセットで担保に入っていることがここで分かります。
そしてもう1つ、見本の欄外にある注記が重要です。
* 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
つまり、下線が引かれている記録は「すでに消された事項」です。全部事項証明書は過去の記録も含めて表示するため、下線を見落とすと「まだ抵当権が付いている」と誤読します。
取得方法と手数料(2026年7月時点)
登記事項証明書は誰でも取得できます。手数料は請求方法によって変わります。
| 請求方法 | 手数料 | 特徴 |
|---|---|---|
| 登記所の窓口で請求 | 600円 | 窓口の業務取扱時間は平日8:30〜17:15 |
| オンライン請求+郵送で受取 | 520円 | 自宅・会社にいながら請求できる |
| オンライン請求+登記所・法務局証明サービスセンターで受取 | 490円 | 一番安い。待ち時間の短縮にもなる |
出典:法務局「オンラインによる証明書の交付請求」 https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/online_syoumei_annai.html
オンライン請求の受付時間は平日8:30〜21:00で、窓口より長く開いています(17:15以降の請求は翌業務日の8:30以降に受付)。手数料はインターネットバンキングやPay-easy対応ATMで電子納付でき、収入印紙を用意する必要がありません。
なお、登記事項証明書は外国人を受け入れる企業にも関係します。在留資格認定証明書(COE)の交付申請では、所属機関がカテゴリー3・4の場合、提出書類に登記事項証明書が含まれます。
まとめ
- 登記記録は表題部と権利部に区分して作成される(不動産登記法12条)。表題部=表示に関する登記、権利部=権利に関する登記(同法2条7号・8号)
- 甲区・乙区は法律ではなく不動産登記規則4条4項が定める。甲区=所有権/乙区=所有権以外の権利
- 甲区は一番下にいる人が現在の所有者。差押え・仮登記も甲区に入る
- 乙区で抵当権(債権額・抵当権者)を確認する
- 共同担保目録で、他の不動産とセットで担保に入っていないかが分かる
- 下線は「抹消済み」の印。見落とすと現在の権利関係を誤読する
- 手数料は窓口600円・オンライン郵送520円・オンライン窓口受取490円
登記事項証明書は、数百円で誰でも取れて、しかも取引の前提を覆しうる情報が載っています。物件を検討する段階で一度取ってみるのが、結局いちばん確実です。
賃貸のオーナー側の実務については「外国人入居者の家賃滞納リスクと保証会社の使い方」、空き家の税負担については「空き家法改正と固定資産税」もあわせてご覧ください。


