家賃収入は日韓でどう違う?チョンセがある国で利回りが出ない理由【2026】

不動産

ここまでは出ていくお金の話でした。今回は入ってくるお金です。

そして、このシリーズで一番大きな違いが出るのがここです。日本で不動産を買えば、貸せば毎月家賃が入ります。当たり前のことに思えます。ところが韓国では、貸しても月々のお金が1円も入らない契約形態が、長く主流でした。

チョンセ(伝貰)です。

この記事では、同じ1億円/10億ウォンの物件を貸したときに、それぞれいくら手元に残るのかを計算します。そして、なぜ韓国の不動産投資が構造的に「値上がり待ち」になるのかを整理します。

この記事は2026年8月時点の公的情報をもとにした情報提供です。利回り・家賃はすべて条件を固定したモデル上の計算であり、実際の賃料水準や税額を保証するものではありません。特定の投資を勧めるものではありません。

チョンセ(伝貰)とは何か

まず制度の説明から。

チョンセは、借主が大きな保証金を貸主に預け、その代わりに月々の賃料を払わない賃貸借契約です。保証金の額は物件価格の半分前後になることもあります。契約が終われば、貸主は保証金を全額返します

韓国語では「전세」と書き、漢字にすると「伝貰」にあたります。日本の賃貸に対応する言葉がないため、本記事ではチョンセとカタカナで統一します。月々の賃料がある形は「월세」=ウォルセ(月貰)です。

借主から見れば「家賃タダで住める代わりに、まとまったお金を預ける」。貸主から見れば「無利子でまとまった資金を預かる代わりに、家賃をもらわない」。

日本の敷金は家賃の1〜2か月分ですが、チョンセの保証金は桁が違います。 10億ウォンの物件なら、保証金は5〜6億ウォン規模になり得ます。

貸主にとって、これは収入ではなく「預かり金」

ここが最も誤解されやすい点です。

チョンセの保証金は、貸主の収入ではありません。返す義務のあるお金——つまり負債です。

貸主が得るのは、預かっている期間にそのお金を運用して得られる利益だけです。銀行に置いておけば利息、他の投資に回せばその収益。金利が高い局面ではこれが実質的な家賃の代わりになりますが、金利が低ければほとんど何も残りません。

近年はウォルセ(月貰)が増えている

チョンセの比率は近年下がり、保証金と月額賃料を組み合わせるウォルセが増えているとされます。金利環境の変化と、後述する保証金返還のトラブルが背景にあると指摘されています。

とはいえ、チョンセがなくなったわけではありません。 投資家として物件を買うとき、「チョンセで貸すかウォルセで貸すか」は選べるとは限らず、その物件がどちらの市場に乗っているかに左右されます。

モデルで計算する

前回までと同じ前提です。

日本韓国
物件価格1億円10億ウォン
保有者非居住者・1件のみ非居住者・1件のみ
年間の保有税(第3回)約44万円約185万ウォン

韓国側はチョンセとウォルセの両方を計算します。

ケースA:日本で貸す(月額家賃)

東京23区・60㎡の中古区分マンションを想定し、月額家賃30万円とします。表面利回りは年3.6%です。

項目年額
家賃収入360万円
▲ 管理費・修繕積立金36万円
▲ 賃貸管理手数料(家賃の5%)18万円
▲ 固定資産税・都市計画税44万円
▲ 火災保険・原状回復・空室損の見込み20万円
税引前の手取り約242万円

投下資金1億円に対して約2.4%です。表面利回り3.6%から、経費で1.2ポイント削られています。

ケースB:韓国でチョンセで貸す

チョンセ価率(売買価格に対する保証金の比率)を55%と置くと、保証金は5.5億ウォンです。

項目年額
賃料収入0ウォン
保証金 5.5億ウォンの運用益(年3%と仮定)1,650万ウォン
▲ 財産税等185万ウォン
税引前の手取り約1,465万ウォン(≒約146万円)

賃料収入はゼロです。 手元に残るのは、預かった5.5億ウォンをどう運用できたかだけ。金利が下がれば、この行はそのまま縮みます。

そして重要なのは、5.5億ウォンは返さなければならないお金だということ。運用に回して元本を割れば、返す原資が足りなくなります。

ケースC:韓国でウォルセで貸す

保証金1億ウォンを預かり、残りを月額賃料に転換します。転換率を年5.5%とすると、月額賃料はおよそ229万ウォンになります。

項目年額
賃料収入(229万ウォン × 12)約2,750万ウォン
▲ 財産税等185万ウォン
▲ 修繕・空室損の見込み100万ウォン
税引前の手取り約2,465万ウォン(≒約246万円)

管理費は借主負担が一般的なため、日本より貸主側の経費は軽くなります。

投下資金10億ウォンに対して約2.5%。保証金1億ウォンを差し引いた実質投下額9億ウォンで見れば約2.7%です。

3つを並べる

日本(家賃)韓国(チョンセ)韓国(ウォルセ)
月々の収入ありなしあり
年間の収入360万円0約2,750万ウォン(≒275万円)
税引前の手取り約242万円約146万円約246万円
投下資金比約2.4%約1.5%約2.5%
収入の性質賃料預り金の運用益賃料
金利が下がると影響なし収入が直撃で減る影響なし

ウォルセで貸せるなら、手取りは日本とそれほど変わりません。 差が出るのはチョンセの場合です。

そして、ここから見えるのがこのシリーズの背骨です。

韓国の不動産投資は、賃料で稼ぐ設計になっていない。チョンセで貸している限り、リターンは価格の上昇に依存する。

日本の不動産投資が「毎月いくら入るか」で語られ、韓国の不動産が「いくらまで上がるか」で語られがちなのは、この構造の違いによるところが大きいと言えます。

税金はどうかかるか

日本:非居住者は先に20.42%引かれることがある

日本で不動産を貸して収入を得ると不動産所得になり、他の所得と合算して累進税率で課税されます。必要経費として管理費・保有税・保険料に加え、建物の減価償却費を計上できます。

非居住者の場合、注意すべき仕組みがあります。賃料の支払い時に源泉徴収されることがあるのです。

賃借人用途源泉徴収
法人すべてあり(20.42%)
個人事業用あり(20.42%)
個人自己または親族の居住用なし

つまり、誰に貸すかで手元に入るキャッシュが変わります。 法人に社宅として貸せば、家賃30万円のうち約6.1万円が先に源泉徴収され、手元には約23.9万円しか入りません。

ただしこれは前払いです。確定申告で経費を差し引いて精算するので、納めすぎていれば還付されます。税額が変わるのではなく、キャッシュフローのタイミングが変わるということです。

また、非居住者は日本国内に納税管理人を届け出る必要があります。

韓国:1件だけの保有なら、非居住者でも賃貸所得は非課税になる

韓国の住宅賃貸所得には、投資家にとって大きな制度があります。

  • 保有が1件だけの場合、賃貸所得は原則として課税されません基準時価12億ウォンを超える高価住宅は除く)
  • 年2,000万ウォン以下の賃貸所得は、14%の分離課税を選べます(必要経費率と基本控除あり)
  • チョンセの保証金については、3件以上保有し保証金の合計が3億ウォンを超える場合にのみ、みなし賃料として課税されます

ここで問題になるのが、この非課税が非居住者にも使えるのかという点です。韓国の税制では、総合不動産税の12億ウォン控除のように「居住者限定」の優遇が実際に存在するため、同じだろうと考えるのは危険です。

しかし賃貸所得の非課税については、居住者と同じように適用されます。 条文(所得税法 第12条第2号ナ目)が「1個の住宅を所有する者」と書いており、居住者に限定していないためです。国税庁の解釈でも、非居住者に対して居住者と同一に適用することが示されています。

さらに実務上効いてくるのが、住宅の数え方です。非居住者が国外に持っている住宅は、この1件のカウントに入りません。 日本に自宅を持っている人が韓国で1件目を買った場合、韓国側では「1住宅」として扱われるということです。

本シリーズのモデル(10億ウォンの中古アパート・基準時価は7億ウォン程度・韓国国内では1件のみ)は、この条件に収まります。つまりウォルセで貸した場合の賃貸所得に、韓国では所得税がかかりません。 チョンセも、3件以上というみなし賃料の要件を満たさないため課税されません。

日本韓国
賃貸所得への課税課税(確定申告)このモデルでは非課税
源泉徴収法人等に貸すと20.42%なし(1住宅非課税のため)
手続き納税管理人+確定申告非課税なら申告不要

⚠️ ただしこれは「韓国側の税金がかからない」というだけです。日本の居住者であれば、国外の不動産所得も含めて日本で申告する義務があります。どちらか一方の国だけを見て手取りを判断しないでください。 また基準時価は毎年更新され、2件目を買った時点でこの前提は消えます(2026年8月時点の制度・根拠=所得税法 第12条第2号ナ目、国税庁の法令解釈(2020年))。

チョンセで貸す側が負っているリスク

最後に、日本の不動産投資にはない種類のリスクに触れます。

保証金は返さなければなりません。 ところが契約更新のタイミングで相場が下がっていると、新しい借主から集められる保証金が前の借主に返す額を下回ります。差額は貸主が自分で用意することになります。

この状態は韓国で逆チョンセと呼ばれ、近年たびたび問題になりました。借主側にとっては「預けたお金が返ってこない」という深刻な事態になるため、保証機関による返還保証の制度も整備されています。

投資家の視点で言い換えると、こうなります。

チョンセの保証金は、無利子で借りられる資金であると同時に、相場が下がったときに自分で穴を埋める義務でもある。

日本の敷金は家賃の1〜2か月分なので、この種のリスクはほとんど発生しません。同じ「保証金」という言葉でも、背負っているものがまったく違います。

まとめ

  • チョンセは、保証金を預かる代わりに月々の賃料が発生しない賃貸借。 保証金は収入ではなく返す義務のある預り金
  • モデル計算では、税引前の手取りは日本 約242万円/韓国 チョンセ 約146万円/韓国 ウォルセ 約246万円
  • ウォルセで貸せるなら日本と大差ない。 差が出るのはチョンセの場合で、収入が金利環境に直結する
  • 日本は非居住者への賃料に20.42%の源泉徴収が入ることがある(個人の居住用は除く)。税額ではなくキャッシュフローの前倒し
  • 韓国の「1件保有なら賃貸所得は非課税」(基準時価12億ウォン以下)は、非居住者にも適用される。 国外に持っている住宅は件数に数えないため、韓国で1件目なら賃貸所得に韓国の所得税はかからない。ただし日本側の申告義務は別に残る
  • チョンセには逆チョンセリスクがある。 相場下落時に保証金の差額を自分で用意する義務が生じる
  • 構造として、日本はインカム型、韓国はキャピタル型に寄っている

賃料でリターンが出にくいということは、出口——売るときの価格と税金——の重みが増すということです。次回、シリーズ最終回では譲渡所得税を比較し、5年後に1億円がどうなっているかを合流させます。

本記事の利回り・家賃はモデル上の計算です。実際の賃料水準・税額は物件・時期・契約条件によって変わり、制度も改正されます。実行の前には必ず最新の公式情報と専門家の確認をお願いします。


タイトルとURLをコピーしました